あなたが毎月積み立てて作ったお金は、あなたの老後を豊かにしてくれるでしょう。そして、残ったお金は、あなたの大切な人に相続されることになります。
ただ、せっかく運用資産を遺しても、相続した人が運用方法を理解できなければ、運用はそこで終わってしまいます。相続した人がちゃんと運用を引き継げるように、運用はシンプルにしましょう。
あなたが築いた運用資産は、いずれ相続される
「相続を考えて運用すること」は、「あなたのリスク耐性に合わせた運用をすること」・「低コストで運用をすること」、と同じくらい大切です。
相続を考えずに非常に複雑な運用をしていた場合、相続した人が運用を受け継げません。相続した人が理解できなければ、運用を続けられないからです。運用を続けられるようにアドバイスしようにも、そのときにあなたはいません。
運用を受け継ぐことができなければ、運用はそこで終わってしまいます。
相続した人が理解できなければ、運用は終わってしまう
コストにこだわりすぎた運用は、複雑になりがちです。複雑な運用とは、とくに「海外ETF」などです。海外ETFは非常にコストが安く、優れた商品もたくさんありますが、運用が複雑です。
海外ETFの複雑な点として、まず、購入に米ドルが必要なので、円から米ドルに交換する、「為替取引」が必要になることがあります。また、売却も売却費用が米ドルで支払われるため、米ドルから円に交換しなければなりません。そして、配当金の税金が、米国と日本とで2重にかかるため、米国で取られた税金分を取り返したければ、「米国でかかった分を取り返す手続き(=外国税額控除)」が必要になります。
コストにこだわって、取り崩しだけで月10万円以上得られるような資産を築いても、相続した人が理解できなければすべて売って終わりです。すべて売って現金にされてしまうとリターンがなくなるため、それからは資産が目減りする一方になってしまいます。せっかく目減りしない資産を遺しても、相続した人が理解できなければ活かせないのです。
相続した人が理解できるように、運用はできるだけシンプルにすべきです。
相続を考えて、できるだけシンプルな運用にしておく
海外ETFや、国内ETFではなく、シンプルな投資信託に投資しましょう。投資信託なら、金額を指定して売却できます。また、投資信託は日本円で購入できるため、外国の資産に投資する場合でも、為替取引は不要です。
なお、相続が開始した際は、日本株式をすべて売って現金にするように、あらかじめ伝えておくといいかもしれません。本当は日本株式をそのまま持つ方がいいのですが、できるかぎりわかりやすくするために、日本株式は全て売ります。日本株式は割合も少なく(株式全体の10%)、外国株式だけでも先進国22カ国に投資できるからです。そのため、外国株式インデックスファンドだけでも、じゅうぶん分散投資できます。
もっと相続をシンプルにするために、「はじめから日本株式には投資しない」という選択もありかもしれません。日本株式に投資しなければ、はじめに日本株式をすべて売る、という手順さえ必要なくなります。
こうしておけば、株式100%の組みあわせの場合、外国株式を年に1回、5%取り崩すだけのとてもシンプルな運用にできます。たとえば、「誕生日*1に、外国株式インデックスファンドを5%だけ売却しなさい」と伝えておけば、簡単に運用を継続できるでしょう。
ただし、資産に日本債券がある場合は、少しだけ複雑になります。たとえば、株式30%、日本債券70%のパターンの場合を考えてみましょう。
まず、日本株式は、全て売って現金化します。そして、誕生日に、外国株式の5%・日本債券の3%を売りなさいと伝えれば大丈夫です。株式30%・日本債券70%をキープするように、リバランスしつつ売りたいところですが、「簡単にできること」のほうが重要です。もちろん、相続した人の金融知識のレベルが高ければ、リバランスしつつ売ってもらうのがベストです。
*1 誕生日でなくても、年に一回であれば日にちはいつでもかまいません。